日曜日, 5月 06, 2007

「人間といういのちをもつ自然存在の一つ」-河合雅雄

昨年秋のことです、兵庫県三田市にある
「県立人と自然の博物館」へ仕事の
打ち合わせで行ってきました。

とてもすばらしい博物館で、広い館内には自然関係の
様々な展示物やジオラマがあり、息子と一緒に遊びに
来たいなと思いながら見学をしてきました。

こちらの博物館の名誉館長は、動物学者であり
サルの研究で有名な河合雅雄先生です。
心理学者の河合隼雄先生のお兄さんでもあります。

一昨年の暮れには、博物館が催した市民による
自然学習発表会に招かれて参加したのですが、
河合先生が開会のスピーチをされました。
そのときにお話されたダーウィンの
「ミミズと土」の話は、ちょうど息子が
土遊びの中でミミズを気に入っていたことから、
とても印象深く面白いと感じました。

いまでも毎年夏には、子供達と一緒に
博物館主催のボルネオ島・ジャングル体験に
同行しているという先生は、こう語られています。

「20世紀は、一言でいえば高度な科学技術が
 全開した時代である。
 それによって巨大で華麗な物質文明が開化した。
 
 人は幸福を求める動物である。
 また、飽くなき欲望を追求する動物だ。
 自然科学という思考の武器を手に入れてから、
 人はいつしか
 物質的に豊かになれば、幸福になれると信じてきた。
 科学技術がそれを可能にし、
 無限の欲望の荒野を拓いてくれた。
 
 一方、その結果、
 大地も水圏も気圏も汚染し、オゾン層の破壊、
 酸性雨、温暖化など、いわゆる地球環境問題を
 引き起こしてしまった。
 人口爆発、戦争と大量死、環境ホルモンなども、
 高度な科学技術によってもたらされた負の世界である。
 
 文化・文明は、光のあたる部分は輝かしく豊穣だが、
 必ず影の部分を内包している。
 
 そして、正の部分に対して等量の負の部分を
 持っているという認識に達したこと、
 それが20世紀における偉大な発見であり、
 教訓である。
 
 それはまた、「人間とは何か」という
 永遠の設問-人間という動物だけが担っている宿命に対し、
 新しい存在論の地平を開くことになった。
 
 20世紀末とは、
 文化環境が過度に自然環境を圧迫し破壊し、
 人間の生存すら脅かすという事態に
 立ち至った時代だといえる。

 文化環境は、人間が創出した環境であるが、
 それは人間に作用し、人間の行動や思考を改変させると
 いう機能をもっている。
 
 たとえば、自動車やコンピューターの発明により、
 人間の生活や社会は、それ以前とはまるで違ったものに
 変えられてしまった。

 したがって、21世紀の課題は、
 過度な文化環境の進展を制御し、人間の生存の基盤である
 自然環境の復興と強化に努める、ということでは
 ないだろうか。

 自然破壊抑止への関心は高い。
 しかし、それは外なる自然に対してであって、
 内なる自然の破壊には積極的に肯定という風潮が恐ろしい。
 
 人間は、霊長類の進化によって誕生した自然の生命体の
 一つである。
 身体は内なる自然といえる。
 
 それが今、破壊にさらされている。
 ヒトゲノム解析、臓器移植、クローン技術、など
 生命科学の進歩はすべて肯定的に受け止められている。

 しかし、これらの技術が欲望という電車に乗せられて
 暴走するとき、何が生起するかは簡単な思考実験を
 するだけで慄然とする。
 
 人間は、人間性及び自己の存在そのものを破壊する
 手段を手に入れた。

 21世紀の成功は、内なる自然の破壊をどこまで
 抑止できるかにかかっている。
 21世紀の課題は、自然存在としての人間像を
 彫琢することにある。

 内なる自然と外なる自然の快い響きの中に、
 人間らしい喜びが湧出するのだと思う。


 2001年、私は喜寿、妻は古希を迎えた。
 病弱だった私は50歳まで生きれば上々と
 思っていたのだが、
 50歳から健康という幸をもらった。

 「健康法は?」とよく訊かれる。
 「神の恩寵です」と答える。

 山川草木悉有仏性の世界の中で、
 私は人間といういのちをもつ
 自然存在の一つなのだ。」


河合 雅雄氏
現職 : 兵庫県立人と自然の博物館名誉館長
1970年 京都大学 教授(霊長類研究所)
1978年 霊長類研究所 所長
1987年 京都大学 名誉教授、(財)日本モンキーセンター所長
1995年 兵庫県立人と自然の博物館 館長

主な著書: 「森林がサルを生んだ」(平凡社1979)、
「霊長類学の招待」(小学館1984)、
「人類以前の社会学―アフリカに霊長類を探る」(教育社1990)、
「子どもと自然」(岩波書店1991) 、
「河合雅雄著作集全13巻」(小学館1996)など




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