土曜日, 7月 21, 2007

「人に人格があるように木にも格がある」-山野忠彦

「人に人格があるように木にも格がある」

このすばらしい言葉を語られたのは、山野忠彦さん。
日本で最初に「樹医」を名乗られた木のお医者さんです。
山野さんは98年に亡くなるまで、全国各地の古木治療の
行脚にまわりました。

「どこが痛いんだ、辛抱しろよ。今、治してやるからな…」

そう、木に語りかけ、木の声を聞き、病に苦しむ木を治療し、
再生することに人生を捧げた私の尊敬する方のお一人です。

毎年、数回行くことになっている長野県黒姫、アファンの森。
かつて私はこの森の育ての親、師匠のC.W.ニコルさんと
松木さんのお二人から、地元の信濃町にある「閑貞桜」の再生の
話を聞かされたことがあります。

高さも幹回りも6メートル、樹齢400年といわれるこの老桜は、
雪の降る黒姫山を背にして、毎年春になると幹を覆うように
ドーム状に花をつけます。
しかし92年に、樹勢が衰え、根が朽ちかけたのを心配した、
ニコルさんは、山野さんに治療を依頼します。

「手遅れだといって何もしないのは間違い。  
 懸命に生きているうちは、助けたい。そう思ったんだ。」

山野さんは弟子の山本光二さんと二人で、土壌改良、害虫駆除と
手を尽くします。
少しずつ樹勢を取り戻しましたが、延命が精いっぱい。
数年かけても、以前のように花をつけなかったのです。

「長年、地元で愛されてきた木。何とか後世に残したい。」
そう考えて山野さん達は2年がかりで種を芽生えさせ、
苗を接ぎ木。
やがて、その”2世”が見事な花を咲かせるようになりました。

「山野さんや山本さんは木の心を理解できる人。  
 こうして木を生き返らせることが、木を崇めてきた  
 日本人本来の心を取り戻すことにもつながるんだと、  
 確かめさせてくれたんだ。」

遠くに並び立つアファンの森の樹木たちを愛しそうに見ながら
ニコルさんは懐かしそうに語ってくれました。

日本で初めて「樹医」の道を切り開いた山野さんは、
全国の古木や名木を数多く甦らせました。
しかし、山野さんと木の交流─その陰には、
まるで小説のような 波乱に満ちた前半生が隠されていたのです。

・指折りの資産家の息子だった若い頃。
・全てを失い、裸一貫の日々。
山野さん30歳の時でした。 そんな時、亡き養父の声が聞こえたといいます。

「これからは、自分が本当に好きなことを見つけろ。  
人を助け、それが自分の喜びにもつながるような。  
そして、生涯やり抜くことのできる人間になれよ…。」

目的を持てなかった人生にようやく小さな灯かりがともったと いいます。
山野さんが最初に始めたのは、集中豪雨が多い土地に植林する ことでした。
一度は失敗するものの、数年後には1000本の桜が 山々を
美しく染めるようになりました。

この桜を皮きりに、本格的な「山作り」が始まりました。
自分の手で山を息づかせる。その山は川を養い、
人間も動物も 命を豊かに育む。

こうして、山野さんは深く、木の魅力にとりつかれていきます。
敗戦後、調査の仕事で各地の山々を見て回った山野さんは、
荒れ果てた姿に心を痛めました。

「ああ、この木はもっと手を入れてやれば、スクスク伸びるのに。
可愛そうだな。早く手を入れてやれば。」

調査を終えた山野さんは、家族に「木の医者」になるという
決意を打ち明けます。
この時、山野さん48歳。
樹医として治療にあたるにはまだ長い年月の孤軍奮闘の日々が
待っており、昼は研究、夜は仕事という生活が始まったのです。

69年、公害が木々を苦しめたこの年山野さんは、
ついに「樹医」として木の治療のため全国行脚へと出発します。
木の治療を決意してから実に20年の歳月がたっていました。

依頼が来た樹木のほとんどは、樹齢100年から1000年以上の
古木でした。
学者でさえサジを投げるような、さしせまった状態からの蘇生。
重病だと2ヶ月もかかる治療もあったそうです。
いつしか、山野さんは木に手を当てるだけで、たいがいの診断が
つくようになっていました。
そうして、山野さんが20年間、 治療してきた木はいずれも
奇跡的に蘇りました。

88年、ついに山野さんが手当てした木は1000本に到達。
樹医として捧げた誓いが、この時果たされたのです。

戦後、荒廃した森を見て
「木が助けを求めてる。
人間の医者みたいに木の医者が要る」
といって 誰も手をつけない木の治療を進んで行い、
木に向かうと必ず数珠を巻いた手で幹を撫でて
「治療するで。我慢してや」とやさしく声をかけたといいます。

挫折からの再出発。 誰も考えなかった樹医として第二の人生を歩み、
「木が守ってくれた…」と、98歳の長寿を全うするまで 後半生の全てを、
木の再生に捧げたすばらしき人生でした。


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