日曜日, 3月 02, 2008

「日本の社会に求められるヒューマン・ファクター」-柳田邦男

房総半島沖で19日早朝に起きた、
海上自衛隊のイージス護衛艦「あたご」がマグロはえ縄漁船「清徳丸」
と衝突した事故。

清徳丸の親子2人の行方は依然不明で仲間の漁船が必死の捜索を
続けており、地元の千葉県勝浦市では家族や仲間が生還を祈り、
真冬の海に必死に手を合わせています。

私もお二人の方が早く見つかるように、心から祈るものです。


今回の事故について、これまでの情報では
乗組員による目視が不十分だったため清徳丸に気付くのが遅れ、
回避動作が間に合わなかった可能性が高いと言われています。

”当時、あたごは当直体制で夜間航行をしており、
 艦橋に10人程度の乗組員が目視などで洋上を監視。
 さらに、前方の船舶を映す水上レーダーでチェックしていた。
 海自幹部によると、300~400メートルより近くなると
 レーダーは役に立たず、乗組員の目視に頼ることになる。
 目視が不十分だった可能性がある。”

一方で、「あたご」はハワイ沖での試験を終え、約4ヶ月ぶりの
帰国。東京湾に入る手前での事故には、乗組員の気の緩みは
なかったかとも言われています。


私は、7年前に起きた海上事故のことを思い出しました。

2001年2月、ハワイのオアフ島沖で米海軍の原子力潜水艦
「グリーンビル」が愛媛県立宇和島水産高校の漁業実習船「えひめ丸」に
衝突、沈没させた事故。

柳田邦男さんは、自著の中の一節、「ヒューマン・ファクター」
この時の事故のことを取り上げられていました。
 
「衝突の直接的な原因は、原潜が海上の安全を十分に確認しないまま
 急浮上したことにあるのだが、なぜそのような危険な急浮上を
 あえてしたのかという点にある。

 これまでに明らかになった事実(事故を起こした要因)の
 主なものだけでも、次のように多い。

 ・「グリーンビル」はデモンストレーションだけの目的で、
  乗組員数が2/3足らずのまま出航したので、安全担当員が
  不足していた。
 ・民間人の昼食で予定が遅れたため、艦長は見せ場の特殊航法(
  左右に高速蛇行や緊急浮上)の実演を急いだ。
 ・ソナー(超音波探知機)室には、訓練生一人しかおらず、
  「えひめ丸」と見られる船影を一度とらえたのに、訓練生は
  追跡しなかった。
 ・艦長は緊急浮上を命じる前に、潜望鏡を1分20秒しか見ず、
  潜望鏡の海面上への出し方も不十分だった。
 ・艦長より上の上級の参謀長は艦長の手順が速すぎると感じたが、
  艦長と部下の信頼関係にひびを入れてはいけないと思い、  
  口出しをしなかった。 
 など。

 このように列挙すると、艦長や関係乗組員の心理と行動を
 支配していたものは何であったかがくっきりと浮かび上がってきて、
 海軍の中に安全のための何が欠けていたかが自ずと明確になってくる。

 米国の全米科学アカデミーが1999年に医療事故の実態と
 取るべき対策に関する研究報告書を出した。
 この報告書のタイトルは、”To Err Is Human”
 (エラーをするのは人間の本性)


 つまり、人間はエラーを起こしやすいのだということを前提に、
 作業手順や機械・装置の設計や組織のあり方を決めないと、
 事故は防げないという意味


 人間のエラーをこのようにシステムの構造の中でとらえる時、
 重要なキーワードとなるのは、「ヒューマン・ファクター」だ。
  
 エラーという言葉には、非難・攻撃する意味がまつわりつくが、
 ヒューマン・ファクターという用語は、責任問題を論じるより、
 事故をもたらした諸々の要因の中で、
 人間(業務遂行にかかわったさまざまな立場の人々)がどのように
 かかわったのかを、まず明らかにしようという考え方がこめられて
 いる。

 そういう考え方でエラーをヒューマン・ファクターとして
 とらえる時には、
 「なぜその人のエラーは生じたのか」
 「その誘発要因は何だったのか」
 という突っ込んだ分析が重要になってくる。”


今回の海上事故についても、ヒューマン・ファクターを明らかに
することで、今後同様の悲惨な事故の防止につながることになります。

製紙会社各社による再生紙の古紙含有率偽装をはじめとする
さまざまな表示偽装、防衛省の装備品輸入に絡む不正・汚職、
スポーツ界をゆるがしているドーピング疑惑・・・

しかし、日本社会を見ているとこのような偽装、不正、疑惑の
後処理がどうもすっきりするものとはなっていません。

起きた直後には、責任者が頭を下げて記者会見。
頭を下げるということの意味が、軽いものへとなりつつあります。
先日の赤福の営業再開では開始から次々に大量に買い求めていく
人々の姿がテレビに映し出されているのを見ましたが、
何か違和感を感じてしまいました。

人間社会の中で、組織と人間の資質の著しい低下が顕著に見られる現在、
ヒューマン・ファクターへのアプローチを行うことは、
事故調査だけでなく、様々な失敗の分析の視点と方法として、
何事につけ失敗をうやむやにしてきた日本の社会に定着させるべき
大事な課題だと思います。



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